第2章 数学の世界A:数学の対象と主要概念

数学は抽象的であると言われる。確かに数学が扱う対象は抽象的なもので、そこに数学の特色もあるのだが、しかし一方でそれらは現実の世界にあることがらやその性質を抽象化したものである。したがって数学の諸概念が生まれてきた現実世界に立ち戻ってみることによって抽象的な概念をより身近に感じることができ、またそこから派生したより抽象的な概念をもよりよく理解することができる。

逆の見方をすれば、数学の概念や考え方を実際の例を挙げて説明することは、「数学」というめがねで見ると現実の世界がどのように見えるかを述べることでもある。「抽象化」することは、決してものごとを無味乾燥な味気ないものとしてしまうのではなく、むしろ普段何気なく通り過ぎていたところに鮮やかで豊かな世界があることを私たちに見せてくれるのである。

この第2章では、まず主な数学的対象とそれに関わる概念について説明する。すなわち数学の世界がどのようなものであるか、より正確に言えば数学の世界についてどのようなイメージを持ってほしいと私達が考えているかについて述べる。これに続く第3章では、数学の方法論、すなわち数学ではどのようにものごとを見、考えていくのかについて述べる。さらにこれら2章では包括的な記述を行っているため、個々の詳細には立ち入っていない点を補うべく、幾つかの大事なテーマについて第4章で個別に取り上げてより詳しく述べた。

本章では、数学的対象を数と量・図形と空間・変化と関係・データと確からしさの4つに大きく分けて述べている[1]。中でも最後の「データと確からしさ」については、他以上に詳細に描き込んである。これは従来の日本の算数・数学教育では、前3者についてはカリキュラムとして十分成熟したものが知られているのに対し、最後の主題、いわゆる確率・統計についてはともすれば周辺的なものとしてないがしろにされてきたが、近年のコンピュータの発達等によって、学問においても、社会生活においてもその重要度が増している、との認識に基づくものである。

 

[1] この分類は、PISA調査で用いられた「数学リテラシー」における「主要なアイデア」でのそれ([PISA2006])とほぼ一致している。