1.1 数学の基礎は数と図形である。

「数(number)」と「図形(figure)」は、「言葉(language)」とならんで人間が持つ代表的な抽象的認識であるが、数学はこれら数と図形(およびそれらを基に生まれた抽象的概念)を考察の対象にする。つまり他の自然科学と異なり、その対象は最初から抽象的なものであって、そこに数学の特色がある。

「数」はさまざまの「量」(quantity)を認識するものであり、一般的な(言葉によって表される)「質」(quality)と区別される。最も根本的な「数」は自然数であるが、自然の中で認識されるほとんどの量は連続量であり、これを私たちは単位、比の考え方を用いて「実数」として表すことを知っている[1]。現代の数学は、空間的な(多次元の)量をベクトルとして表現し、またこの「数」の概念を広げることにより、さらに広い範囲の「量」を考えることを可能にしている(複素数、有限体)。また数学は、単に静的な確定した量だけでなく、「変化」する量、「不確定性」を持った量も取り扱うことで、その世界をより豊かなものに発展させている(詳しくは「数学の世界」参照)。現実世界にあるこれほど多くの様々の概念が「量」として数を用いて表され、それらの関係として自然法則が記述されるというのは、考えてみれば、実に驚くべきことである。そして自然科学が数学を言葉として用いる第一の根拠はここにあるのである。

「図形」は「空間」(space)内にあるさまざまの「形」(shape)という特別な「質」を認識するものである。このとき数学が行うことは、形の持つ特定の特徴にのみ着目して、他の一切を捨象するという作業であり、数学に特有な抽象性、厳密性はここに由来する。またこれらの図形の性質間の関係を明らかにしていくことが重要で、そのために論理的な推論が用いられる。数学の持つ論理性、体系性もまたここに由来する。

実は図形は「長さ」「角度」など様々の量を持っており、図形の性質の多くはそれらの量を用いて記述されることから、図形の量的な性質を調べる(計量)ことが重要である。逆に、様々の量を座標・グラフなどを用いて視覚化することができる。こうした「数」と「図形」とのあいだの密接な相互関係が数学をきわめて豊かなものにしているのである。

一方で、一筆書きできるかどうかなど、計量化されない図形独自の性質(位相的性質)の研究も進み、特に近年はグラフ理論などが応用をも含めて様々のところで用いられている。

 

[1]ユークリッドの『原論』においては、「長さ」「角度」等は絶対的な「量」として取り扱われている。当時は「無理数」の扱いが回避され、有理数だけを「数」としていた。