1.2 数学は抽象化した概念を論理によって体系化する

数にせよ図形にせよ、それを扱うためには、現実の複雑なもの(complex)の中から、ある概念を抽象化(abstraction)し、その本質を明確化する(数学的に厳密に定義する)のが数学の基本的方法である。この考え方から、数学は、数や図形を出発点として、さらに抽象的な概念を創出してゆく。

その上で現実の持つ複雑性を回復するために、こうした諸概念を体系的(systematic)に結びつけてそれらの関係を明らかにし、一個の有機体(organism)として再構成する。その構築を支えるものが論理(logic)である[1]

このようにして、数の演算の研究から代数学が、その変化の研究から解析学が、図形の研究から幾何学が生まれ、さらに確率論、数学基礎論などが数学の主要分野として生まれ発展して現在に至っている。

「抽象化」するということは、ある性質にのみ着目して、他のすべてを切り捨てることである。では、そうやって抽象化によって得られた概念が、貧しいものかというと、全くそうではない。「抽象化」とは単に既知の一群のものに共通な性質を取り出すことにとどまらない。むしろそれによって従来意識されていなかった、全く異なるものと新たに関連づけられ、それによってその概念自身が新たな豊かさ、広がりを獲得する、という事情がよく起こる[2]。抽象化の過程でこそ数学的な想像力が有効に働き、新たな概念を創り出し、あるいは新たな概念間の関係を見出すことができるのである。

 

[1] この辺の事情を[SfAA]では「数学はパターンと関係の科学である」と言い表している。また学問としての方法は哲学と本質的に通じるものを持っている。ただし哲学では自然言語を用いる。

[2] ユークリッド幾何学における「直線」は、非ユークリッド幾何学の確立によって、「真っ直ぐな線」(測地線)として一般化され、例えば球の大円との類似性が明らかにされた。