1.4 数学は普遍的な構造(数理モデル)の学として諸科学に開かれている

数学が言語であるとすれば、数学の理論(数理モデル)は文芸作品と比べられよう。数学が、自然言語の文芸作品と大きく異なるのは、その理論が普遍的で、それゆえ自然や社会を記述するモデルになることである。その有用性は、数学理論自身が強力なサブルーチンとして物事の理解、問題の解決に使えるところにある。つまりある現象が数学理論の要求する諸前提(ある種の基本的法則性)をみたすことが分かれば、その理論を数理モデルとして、その結果を用いることにより現象についての様々の帰結(より高度の法則性など)が直ちに得られる。代表例は力学における微分方程式の理論である。文芸作品は個別独自性に価値があるが、数学理論はこうした普遍性にこそ価値がある。近代科学はこの普遍性あるがゆえに数学を自己の言語として採用し、またそうすることによって自らを確立した。

ただし、数学理論がいつも現象の解明に先だって存在するわけではなく、現象の解明への努力が数学理論を生み出すことも多く、その影響は双方向的である。それはニュートン力学の誕生と微分積分学の成立の経過に典型的である。数学もまた、近代科学の確立を契機として、自らの近代化を実現したのである。その後、数学と自然科学とは相互に強い影響を与えつつ、現在に至っている。

一方で、全く独自に数学の分野で想像力のみによって確立された理論が、あるとき自然の中にモデルとして現れたり、技術の分野で著しい応用があったりする。数学の理論と他の諸科学との関係は密接ではあるが同時に多様である(第5章参照)。

さらに上に述べたように、ユークリッドの『原論』の理論記述体系は、学問の、より広く言えば人間の知識体系を記述する「普遍的モデル」の役割を果たしてきたと言えよう[1]

 

[1] それ故、ニュートンは自らの力学についての著書を『自然哲学の数学的原理』と名付け、ホワイトヘッド-ラッセルは彼らの数理論理学の著書を『数学の原理』と題した。