2.1 数量

2.1.1 数と量

・ 数と量 量(quantity)を表現するものが数[1](number)であり、数によって表現されるものが量である。数は数学の世界の概念(concept)であり、量はその自然界における実現(realization)である。現代は計算器、あるいはコンピュータの発達によって、複雑な数の計算を手で行う必要は減少しているが、数と量との相互関係の認識、計算の仕組みの理解、あるいは概数、近似などの数の感覚を持つことは変わらず、否従来にもまして重要である。

・ ある考察対象を量として認識する、すなわちその性質を数として表すことを「数量化する」(quantify)といい、数量化された性質を「定量的」(quantitative)性質と呼んで、(通常の)言葉で形容される「定性的」(qualitative)性質と区別する。より正確に言えば、定性的に表現されている性質を定量的に捉えることを「数量化する」と言う。そこでは「大きい-小さい」「強い-弱い」「重い-軽い」「濃い-薄い」「熱い-冷たい」など対になった様々の「度合い」を表す性質を「数」として表現することになる。多くの場合それが可能になるところで理論的にも技術的にもすでに重要な科学的契機がある。例えばものの重さを量る場合には、何らかの力学的原理・法則その他が使われる(cf.[5.3])。

2.1.2 量の性質

数が数学という一つの世界の概念であるのに対し、量の場合には、それがどこの世界での数の実現であるかという「属性」を持っている。これを物理学では「次元」(dimension)とよぶ。

量には必ず基底量(“0”に対応する量)と単位量(“1”に対応する量)がある。もしその量に「加法性がある」(下記の外延量)ならば、逆にこれらを決めることによって、対応する「数」は当該量と基底状態との差と、単位量との比として一意的に決まる[2]。「位置」「時刻」などがそれに当たる。相対的な関係(差)だけが問題である場合には、前者も不要である。上の例を相対化すれば「長さ」「時間」がこれに当たる。後者および「面積」「体積」「重さ」などは「何もない状態」という(自然な)基底状態がある。こうした加法的な量は「外延量」とよばれている。これに対し「濃度」はそのまま加えることができず(10%の食塩水と20%の食塩水とを加えて30%にはならない)、二つの外延量(食塩水で言えば、食塩の質量と溶液の質量)の比として定義される。このような量を「内包量」という。多くの量は幾つかの基本的な外延量を掛けたり割ったりした形で定義される[3]。

・ 単位系 したがって様々の量を数値化するには「単位」を定める必要がある。違う単位を用いる場合には数値を「換算」する必要がある。しかも量の間に関係があるから、単位はそれと両立する形で決められなければならない。例えば距離をメートルで測り、時間を秒で計れば、速さは メートル/秒(秒速○メートル)である。(物理学的な)量についてこのように相互に関連させた単位の集まりは「単位系」と呼ばれ、国際的にその基準が定められている(国際単位系)。これに対し、「角度」と「対数」の二つの数学的な量については、数学内部での単位(スケール)が必要になる。前者には度(360°で一周)とラジアン(2πで一周)があり、後者では常用対数(10を底)と自然対数(数eを底)が代表的である[4]。

・ 離散と連続 量には、自然数(整数)に対応する離散的な(discrete)(「数える」)量と、実数に対応する連続的な(continuous)(「測る」)量とがある[5]。離散的な量には「次」があり、連続量にはそれがない。連続量を数として認識するのは、有理数による近似値の形を通してであることが多いが、他にも方程式の解などその性質による表し方があり得る。中でも重要なのは数直線を用いることで、それにより連続量は「長さ」(正確には「直線上の位置」)という特別の量として表される(後述)。

2.1.3 数の性質

・ 自然数には、個数(濃度。一対一対応を基礎にする)と順序との2つの捉え方がある。どちらの意味で考えるかによって「2つ」「2番目」と呼び方が異なる。前者の意味で考えることが多い。数(自然数)を数えることは、言葉と同じくらい古いが、これを組織的に用い、計算し、記録するようになったのは経済が発達した古代文明の時代からである。

・ 整数 自然数では加法・乗法が定義できるが、減法・(乗法の逆演算としての)除法は必ずしもできない。このうち減法が可能となるように負の数を加えることによって整数が定義される[6]。

・ 数は「大きさ」の概念があることと、「計算」のできることとが2つの本質的な性質である。量を数によって表すときには、これらの性質が大事な役割を果たす。

・ 加法・減法 同じ次元の量の多くではそれらを「加える」ことができる(外延量)[7]。この意味で加法は最も基本的な演算ということができる。加減法の基本性質は加群(可換群)の公理としてまとめられる。中でも結合法則、交換法則、(乗法との関係を示す)分配法則は基本的である[8]。

・ 乗法・除法 代数系としては同じ可換群であっても、量として考えるとき加法と乗法は全く違う。加減法が同じ次元内での演算であるのに対し、乗法・除法は違う次元の量を掛けたり割ったりして、また新たな次元の量を作る(長さ×長さ=面積、道のり(長さ)÷時間=速度)。つまり乗法や除法はそれを繰り返すことでどんどん新たな世界を創っていくのである[9]。一方、同じ次元の量の比(ratio)をとることで無次元の量(スカラー)が得られ、逆に2倍、3倍というように無次元の量をかけて(スカラー倍)同じ次元の量を作ることもできる。

・ 自然数(整数)の除法 自然数の中での(余りの出る)割り算は、除法の計算アルゴリズムの基礎として重要である。同時に、それらは約数・倍数などの数論的概念の基礎になり、「素数」の深い世界につながっていく。

・ 順序 個数を含めた多くの量には順序、大小関係があって、対応する数の大小と両立している。その呼び方は量によって様々で、それが個々の量の性質を特徴付けている。例えば長さは「長い、短い」、面積は「広い、狭い」、重さは「重い、軽い」、温度は「熱い、冷たい」等々。逆に言えば、こうした様々の「度合い」を示す性質を抽象化したものが順序であり、その性質は共通しているのである[10]。それらは普通演算とも良い関係がある(順序体の公理)[11]。ただし角度、暦などでは「周期」の存在のため順序関係がない(一定の範囲では順序がある)。

2.1.4 数の表現・近似

・ 命数法、十進法 人間は(通常)十進法を基礎とした命数法を用いて効率的に数(自然数)を言葉で表現することとした。日本では中国の合理的な命数法を用いてきたので、ヨーロッパ諸国のような複雑な数え方がなく、算数教育で余分な労力が不要である(cf.[4.2])。

・ 記数法 さらに0を導入することによって位取り記数法が可能になった。この記数法による四則演算(筆算)のアルゴリズムが容易に書けるなどの利点があり、私たちはそのおかげを蒙っている、人類の最大の発明のひとつである。日本ではアラビア数字による(位取り)記数法は明治期以降普及したが、すでにそれ以前に実質的に同値な位取り記数法であるそろばんによる数の表示が広く一般化していた。日本人の数感覚が世界的に見ても優れているのはこうした伝統の故である[12]。コンピュータの普及とともに二進法の重要さも増している(cf.[4.2])。

・ 実数の表現 連続量に対応する実数(特に無理数)を数学で一般的に表現するには「近似」を用いなければならない。近似数の表記法としては、小数と分数の2つがある。小数の四則演算は、位取り記数法を用いれば、整数のそれと全く同じアルゴリズムで実行できること、誤差評価が容易であることなどの利点がある。

・ 有理数 整数の比の値として「有理数」(rational number)[13]の概念が得られるが、その表示方法に重点を置いて言う場合は「分数」と呼ばれる。分数は単位分数として捉える仕方もある。分数の四則演算が定義できるが、単位分数の立場では加減法が、比の値の立場では乗除法が自然に定義される。後者の立場に立つ加減法、前者の立場に立つ繁分数の乗除法はより理解が難しい。

・ 近似(概数) 順序によって2つの量の「近さ」(絶対値)が定義できる。これによって、おおよその数に「丸める」こと(それで大きさのイメージをつかむことができ、計算が簡単になる)、欲しい誤差の中に収まるように近似することなどができる。近似の精確さ(accuracy)と扱いやすさとは二律背反になる。

・ 有限小数は有理数である。逆に有理数は必ず有限小数かまたは無限循環小数として表される。無限小数はある実数を表し、任意の実数は有限小数または無限小数で表すことが可能である。

・ 数直線(座標)・グラフ 数はまたその代表的な量である「長さ」に変換することによって、視覚的に表現される。私たちが長さを測る、つまり量を数に変えるときは「物差し」を使って測るのであり、この「物差し」の概念を(無限の長さの物差しとして)抽象化したものが「数直線」(1次元座標)に他ならない。より正確に言えば、これは直線上の「位置」を数で表すので、それは原点(基底量)と単位の長さ(または1に対応する位置)とを決めることで、一意的に定まる。さらにこれを用いることによってあらゆる「量」を(数を通して)視覚化することができる。特に2つ(またはそれ以上)の量の関係を視覚化するものとしてのグラフ、図形を表すための(平面、立体)座標は様々の場で用いられる(cf.[3.1.5])。

・ 複素数 「数」(実数)の世界の一番自然な拡張は(i2 = -1という「数」iを加えた)「複素数」の世界である。そこではあらゆる代数方程式がその中で解を持つという数学的に著しい性質がある(代数閉体)。自然界で複素数が直接的に見えるわけではないが、電磁気学、量子力学などの理論的枠組みに複素数を取り入れると理論が極めてすっきりしたものになる。

2.1.5 文字式

・ 数の抽象化としての文字式 ある数に別の数を加える、というように様々の数について一度に考えるとき、この「ある数」「別の数」を文字によって、例えば ab を用いて ab と書く。このように書かれた式を「文字式」という。文字を「数を表すもの」として用い、幾つかの量を一度に表現して考えることができるのは、数学という言語の優れた特徴である(cf.[3.1.2])。それによってきわめて一般的に問題を扱って解くことができ、しかも多くの場合にその答を求めるための一定の手順さえも書き下すことができるのである(アルゴリズム)。

・ 多項式・分数式 文字式で、数の基本法則(結合、交換、分配)が成り立つと仮定すると、文字式を「標準的な」形に表すことができる。1文字(と実数)から加減乗だけを繰り返して得られるのが多項式で、一般の場合(分数式)はその比として表せる。多項式は整数のように加減乗が定義でき、その比として表せる分数式では有理数と同様の仕方で四則演算ができる。

・ 1変数の多項式は整数と似た様々の性質を持っており、例えば余りのある割り算が定義でき、したがって約数・倍数に当たる概念があって、素因数分解の一意性などが成り立つ[14]。

・ 多項式や分数式で重要なのは、この変数の部分に数や別の式を「代入」(substitute)できることである。数を代入するとその結果として数が得られ、それは1つの「関数」を与えることになる。このようにして得られる関数を多項式関数あるいは分数関数とよぶ(cf.[2.3.2])。

2.1.6 代数系

・ 実数の中で、整数全体は加減乗の3つの演算に関しては閉じている(すなわち例えば2つの整数の和はまた整数となる)。多項式を含めた(1変数)分数式全体は実数と同様に四則演算ができ、またその中で多項式全体はやはり加減乗に関して閉じている。ここに現れる、加法や乗法のようにある対象(集合)の2つの要素に対して、第3の要素の対応の仕方が定まっているものを(2項)演算という。1つまたは複数の演算を持つ対象を一般に「代数系」とよぶ。これは数の演算の抽象化である。

・ 上に挙げた例の他、ベクトル、行列など様々な代数系がある。やや変わったものとして、二つの集合 A, Bに対してその和 A∪Bあるいは共通部分A∩Bを取るという演算がある(Boole代数)。これは論理に現れる演算と深い関係がある。代数系では数の演算の性質(結合法則、交換法則など)の全部または一部、あるいはその変形などが成り立ち、代数系を特徴付けている。それらの代数系の性質と関係を研究するのが代数学である[15]。最初に挙げた、整数あるいは多項式全体は(可換)環と呼ばれる代数系である。

 

[1] ここで「数」とは特に断らない限り(自然数、有理数を含んだ)「実数」を意味する。

[2] ユークリッドの『原論』では、有理数のみが「数」とされ、長さや角度は絶対的な「量」として独自に扱われて、「比」なども幾何学的に解釈された。

[3] 物理的な量としては、国際単位系(日本工業規格もこれに準拠)に挙げられている7種類(長さ、質量、時間、電流、温度、物質量、光度)が基本である。

[4] eπとの重要性の本質はここにある(cf.[2.3.2][3.4])。

[5] 現在はそれぞれ「デジタル(digital)量」「アナログ(analogue)量」とよばれることも多い。

[6] 整数に乗法を拡張すること、特には子どもたちにとってなかなか理解できないことである。これは量で考えるとき、乗法によって次元が変わってしまうことが大きい。

[7] これに対し内包量は単純に加えることができないが、速度のように加法が考えられるものもある。

[8] 私たちはまず意識していないが、数や文字式の計算におけるアルゴリズムの正しさのほとんどはこれらに依拠している。

[9] 逆に、「数」は単位量との比を取っているから常に「無次元」であり、したがって掛け算をしても「同じ世界」に止まっている。この区別ができて(デカルトによる)初めて文字式の四則演算が可能になった。

[10] 順序の公理:

[11] 実数で「大小」を言う場合、数学では加法的な「多い少ない」と同じ意味に取るが、日常的には乗法的に絶対値の大きさの意味で用いることもあって混乱を起こす。少なからぬ子どもたちにとっては「-10より0.1の方が小さい数」と感じられる。

[12] しかし今はレジスターが釣り銭を自動計算するなどの理由から、日常的な暗算の機会は減り、こうした伝統も消えつつある。

[13] 元来の意味は「有比数」である。

[14] 1変数の多項式・分数式が理解できれば、多変数の多項式・分数式を考えるのは容易い。ただしそれらの数学的性質は大きく違ってくる。直線の世界と平面・立体の世界とが全く違うように。

[15] 現代の代数学はここに述べたように抽象的・一般的なものとなっているが、歴史的には、代数方程式を解く理論として代数学は生まれ、発展した。