2.3 変化と関係

2つの量の間には様々の「関係」(relation)がある。特に時間との関係を「変化」(change)という。これらを抽象化して数学の世界の概念としたものが「関数」(function)である。

2.3.1 関数とその表現

・ 関数 私たちが日常的、あるいは社会的にふれる量は、単独で存在することよりも、時間その他の状況によって様々に変化する場合が多い。このような量の変化、あるいは状況を表すパラメータ(1個とは限らない)への依存の仕方を調べることは重要で、数学はそのための様々な言葉や手段を開発してきた。まずこの「変化する量」のことを数学では「関数」と呼んでいる。すなわち1つまたは複数の数に依存してある数が定まる仕組み(対応)が与えられているときに、この仕組みのことを関数という。

・ 変数 例えば場所と時間を決めればそこでの気温は定まる。場所を経度a, 緯度bとして数値化し、時刻をt、 温度をT(これらも単位を決めて数値化する)とすれば、 T = T(t, a, b)という関数が定まる。このとき {t, a, b} を独立変数、T を従属変数という。独立変数が1個として、これをx、 従属変数を y、 関数を f で表して、この関係を y = f(x) と書く。

・ 写像 関数をさらに「抽象化」したものとして、集合から集合への「写像」(map)の概念がある。というと難しそうに聞こえるが、この方が(当然のことながら)普通で沢山ある。上の例との類似で言えば、場所を数値化せずに{東京(のある決まった場所、以下同じ)、名古屋、大阪}とリストを作って、時間は正午に決め、その時点での天気(晴れ、曇り、雨など)を考えることにすれば、これはもう関数ではなく(場所からなる集合から天気の種類の集合への)写像である。大事なのは、パラメータ側とそれに依存して変化する「もの」が何かがはっきりしていて、その依存の仕組みがきちんと定まっている(well-defined)ことである。

・ 関数の表現法 関数は、対応の仕方が「定まっている」ことさえ分かっていればよく、具体的に明示されなくてもよい。つまり一般の関数というのは、ある入力に対して定まった出力があるという、一種のブラックボックスである[1]。それをどう記述してその性質を調べるかが数学の問題なのである。まず関数を記述する方法として代表的なものは、表、グラフ、数式の3種類があってそれぞれに特徴を持ち、考えている問題に応じて、適当な手段を取る必要がある。

・ 表 変数値に対して関数の値を対応させて一覧表にするのは最も素朴で一般的な表し方である。グラフを描くためにも普通はまず表を作らなければならない。しかし連続量に対してはすべての値を書くわけにはゆかないし、数字だけでは細かい性質まではなかなか見えないという限界がある。

・ グラフ グラフを用いて関数を表示する方法によれば、変化の様子、つまり関数の性質は一目で分かる。ただ作成はかなり大変なのが普通であり(特に変域や値の範囲の取り方に工夫が必要である)、また細かい変化の様子までは分からない。さらに(これが本質的であるが)変化の性質は読み取れても、なぜそうなるかの説明はできない。

図1 グラフ

・ 数式による表示 関数を表す最も「正確な」方法は(代表的な関数を含めて)数式を使って表すことであり、多くの性質もそれから導くことができる。したがって問題を解くために関数を調べるには、まずそのいくつかの特徴を明らかにして、それを用いて具体的に数式で書くことを目指す。しかしながら実際の問題で、これが可能となるのは僥倖といってよく、そこまでできないのが普通である。そこで近似的な関数を求めたり、あるいは性質だけを独立に調べることになる。同時にそうして「分かっている」関数の範囲をだんだん広げていくのである。

2.3.2 代表的な関数

・ 数学は、そうした変化(関数)の最も基本的なものとして、正比例(または1次関数)、反比例、多項式的変化(特に2次変化)、指数的変化、対数的変化、周期的変化など(とその組み合わせ)を考える。これらが現実の世界の様々の場に現れること、その変化の型(一定量の乗法的あるいは加法的増加に従って値がどう変化するか)の特徴を知ることがまず基本である。

・ 正比例と反比例 3種類の量 a, b, c の関係では ab = c という乗法的関係が最も基本である[2]。このうちa または b を一定に保てば正比例、c を一定に保てば反比例の関係が得られる。正比例は加法を保つ()という著しい性質がある(線型性)。例えば、道のり=速度×時間である。速度が一定(等速度運動)であれば、進む距離は時間に比例する。ある地点から別の地点に移ることを考えれば、進む速度と所要時間は反比例する。あるいは品物を買う合計金額=単価×個数も日常的によく使われる。正比例に近い関数は1次関数  である。例としては上で道のりの基準点を出発点以外のところに置いた場合に当たる。1次関数は独立変数の一定量の増加には一定量の値の変化があることで特徴付けられる。また幾何学的には関数のグラフが(水平でない)直線となっていることでも特徴付けられる[3]。

・ 正比例(あるいは1次式)で表せない最も簡単な変化は2次多項式で表せるもの(2次関数)、あるいはその一般化として、多項式関数、有理関数で表せる変化がある。これらをまとめて代数的な変化とよぶ。その代表的な例としては等加速度運動(自由落下など)がある。すなわち1次元的な位置で考えて、時刻0での位置をc、 時刻0での速度をv、 加速度をa とすれば、時刻tでの位置は  と表すことができる。

・ 指数関数 1次関数と似ているが、一定量の増加があると一定倍される形の変化がある。典型的には預金を複利で増やしたときの元利合計がそれに当たる(単利の場合が1次関数)。元金をA、 利率をp、 期間をt とすれば、元利合計は B = A(1+p)t となる。この場合、期間は飛び飛びの値であるが、これを実数全体に拡張することができて(「補間する」という)一般に指数関数(の定数倍) が得られる。特に A = 1 の場合()には、加法が乗法に変わる( 指数法則)という著しい性質があり、これが厳密な意味での指数関数である。すなわち指数関数は実数全体からなる加法の世界を正の実数全体からなる乗法の世界に結び付けていることになる。指数関数のもう1つの著しい性質は(a > 1 のとき)値の増大が著しいことである(ねずみ算)。複利が単利よりも有利なことは知られているが、単に利息が多いだけではなくて、期間が長くなればどんどん有利になる。さらに利率がどんなに低くても、0でさえなければいつかは必ず単利のどんな利息よりも多くなる。

・ 対数関数 例えば十進法で自然数を表したときに「桁数」はもとの数が10倍になると1増える。つまり上と逆に一定倍するとその値は一定だけ増える(あるいは減る)という関係になっている。これも飛び飛びの値であるが、同じようにこの関数を実数全体に拡張することができて、対数関数と呼ばれ、a倍すると1増える対数関数をと書く(1に対する値は0とする)。これは乗法が加法に変わるという性質()があり、逆に乗法の世界を加法の世界に写す。したがって私たちは指数関数と対数関数を用いて加法の世界と乗法の世界とを行き来できる。こう書くといかにも抽象的数学の世界のように思われるが、実は私たち生物は普通外界の刺激の強さなどを対数関数で変換して感じ取っている(ウェーバー・フェヒナーの法則)。例えば音の高さは振動数が2倍になると1オクターブ高い音として認識される。

・ 三角関数(円関数) もう1つの典型的な変化の型は「周期的な」変化である。昼と夜、あるいは春夏秋冬など様々の周期的な変化が私たちの身の回りにある。それらは時間(何時何分)あるいは月日、昼(または夜)の時間の長さなどの形で数量化される。その典型的なものは波の高さの動きである。あるいは回転する円板の上に置いた点の位置変化といってもよい。正確には原点中心の単位円上で時刻0で(1, 0) にあった点が等速(速さ1)回転したときの時刻tの位置が(cos t,  sin t)と表され、それぞれ余弦関数、正弦関数と呼ばれる。両者は時刻をπ/2だけずらせば重なる()ので、本質的に同じ関数である。これらは普通三角比から定義されるが、関数としてはこのように見るのが自然である。これらの関数は実数全体の加法の世界を円周上の回転の世界に写していることになる。

・ 上に挙げた関数達はその性質もまた値も(特別な場合の値、一般の場合の値の計算方法)よく分かっているので、これらの関数を用いて表される関数は基本的に「分かった」と考えることができ、実際様々の方法でその性質を調べることができる。この一群の関数は「初等関数」(elementary functions)と呼ばれてひとつのまとまった宇宙を形作っている。この宇宙の先に続く形で実は様々のおもしろい性質を持った関数の存在が知られ、用いられている。例えば三角関数のもう1つ彼方には楕円関数という数学的にきわめて深い内容を持った関数がある。

2.3.3 関数の性質を調べる

・ 関数については、その変化の様子を関数の形、グラフその他から読み取り、現実の問題でどのような意味があるかを考えることが大切である。そうした変化の性質としては増加、減少に始まり、急に増加する、発散する(爆発する)、ある値に漸近していく、周期的に繰り返す、ある場所で特定の値を取る(例えば0になる)など様々のものが挙げられる。

・ 正比例 変化の基本は正比例 y  =  ax である。この比例定数 a が正であれば関数は x の増大と共に増加し、負であれば減少する。0であれば一定で変化しない。また a の絶対値が大きいほどその変化の度合いは大きい。グラフで見ると、この関数のグラフは(原点を通る)直線であるが、比例定数はその傾きになっている。

・ 微分 局所的な関数の挙動を調べる有力な方法として、微分法がある。これは(数値)関数としては瞬間的な変化率(微分係数) を見るものである。関数f(x)を考える点a の近くで1次関数  として近似すると言い換えることもできる。SF的に言うと、どんどん自分を小さくしてミクロの世界にゆくとその関数のグラフが直線になってしまうのである。幾何的にはグラフの接線の傾きとして理解される(ミクロの世界で「見える」直線が接線に他ならない)。もちろん微分係数は存在するとは限らない。それどころか存在しない方が普通であるが、先に述べてきたような「標準的な」関数では微分係数が存在する。そのような関数  は微分可能であるといい、各点でその微分係数を対応させることで得られる新しい関数  f の導関数という。この導関数を用いてもとの関数 f の変化を調べるのである。例えば導関数がある範囲で正であれば、そこで関数は増大し続ける。またその導関数の値が大きいほどその増大度も大きい。この導関数の導関数を考えることで、さらに詳しい変化の様子を知ることができる。特に図形では、曲線や曲面の「曲がり具合」などをこうして調べることができる。さらに微分を知って元の関数を求めることを「積分する」(integrate)という。ミクロの世界での様子を調べるので微分積分学は「無限小解析学」(infinitesimal analysis)とも呼ばれる。

・ 速度と加速度 微分積分学は力学との関連で研究確立された。運動、すなわち時間を変数とする位置の関数を考えるとき、微分係数はその時点での(瞬間)速度に他ならない。すなわち速度計は導関数を測っている。この速度の導関数(すなわち2次導関数)が加速度である。ニュートン力学の基本法則は質量と加速度の積が力に等しい ma = f というものである。したがってもとの位置の関数は2階微分方程式(運動方程式)の解として表されることになる。

・ 関数そのものがすぐ数式で書けないとしても、その性質から例えば運動方程式のように微分方程式の解として関数が記述できる場合がある。このときそれを数学的に解いて解がよく知られた関数を用いて書ける場合もあるが、たとえ陽に解けなくとも、その解の関数の様々な性質を微分方程式としての性質から導くことが可能である。さらに近年はコンピュータの発達により、数値的に近似計算で解を求め、あるいは微分方程式さえ知られていなくともシミュレーションなどでその関数の性質を調べるという方法が広く行われるようになっている。こうした様々の関数の性質を調べ、それを応用する数学の分野が解析学である。上で微分を用いて曲線の性質が分かると述べたが、計量的な幾何的性質を調べるのに解析を用いることができる。これが微分幾何学と呼ばれる分野である。不思議なことに飛び飛びの値しか取らない整数の性質を調べるのにさえ、解析学が有効である(解析的整数論。cf.[4.4])。

 

[1] 歴史的には、当初式の形で明示されたものしか「関数」と見なされなかった。このように一般的な数の対応として関数を捉えたのはディリクレである。

[2]  は同じ量であることから来る自明な関係として考慮しない。

[3] 厳密には連続性が必要。以下も一々断らないが、数学的に必要な滑らかさを仮定する。