4.2 命数法・記数法

動物にもある程度数の概念があると言われるが、人間は言葉を持つので、さらに数に名前を付け、数の範囲を拡大していった。このやり方を命数法と言う。これに加えて人間は数を記録する方法(記数法)をも作り出した。特にアラビア数字による位取り記数法は、私たちがふだん何気なく使っているものであるが、極めて優れた便利なもので、人類最大の発明の1つと言っても過言ではない。

 

4.2.1 命数法

数詞はおそらく人類の言葉の歴史と共に古く、民族によって様々のものがあるが、多くの言語では基本的に十進命数法を取っている[1]。これは1から9までの数詞と、「十」「百」「千」などの位を表すことばとそれらの並べ方で掛け算や足し算を表すことにより数を表すものである。例えば「三百六十五」といえば、これは「さん(3)×ひゃく(100)+ろく(6)×じゅう(10)+ご(5) = 365」を意味する。

この仕組みによって、位の名前を付けさえすれば、いくらでも大きな数を言い表すことができる。実際『塵劫記』などにある「無量大数」という位は65桁(本により多少違いがある)の数を表す。またこの位の名称を用いることで、その数がどのくらい大きな数であるかのイメージを持つことができる。しかし私たちが普通使うのはせいぜい「兆」くらいまでで、それより大きい数は「次元」の違う数として、数を測る単位の方を変えるのが普通である。

ほとんどの言語で十進命数法は確かに基本であるが、実際には、12進法や20進法などが様々の形で残っており、数の「名付け方」としては複雑になっていることが多い。英語の“eleven(11)、twelve(12)”はその代表的な例である。日本語でも古くからの「大和言葉」にはそうした名残があるが、実用的には中国から導入された完全な十進命数法が用いられており、算数の学習で数やその計算の仕組みを生徒達が理解するのを容易にしている。

 

4.2.2 記数法

実用あるいは文化としては、数を「記録」することがより重要になる。素朴には1つごとに線を引いたり、○を書いたりといったシンボルによる表示が用いられたが[2]、組織的に数を表す必要から、「数字」を用いた記数法が生まれた。

当初は1または位を表す文字を数だけ並べ、その総和として数を表すこととしたが、これでは数が大きくなるにつれて(1)数字が長くなってしまうこと;(2)何種類もの文字が必要になること;(3)計算が複雑になることなどの欠点が目立つようになる。例えば 2637 + 3948 をローマ数字

MMDCXXXVII + MMMDCDXLVIII

を用いて計算してみるとよい。掛け算はもっと大変であり、割り算はほとんど不可能である。

これに対し、今日私たちが用いているのはインドで考え出され、アラビアを通してヨーロッパに広まった「十進記数法」と呼ばれるものである。これは、一から九までを表す9個の数字(「アラビア数字」または「算用数字」とよばれる)と、空位を表す「0」の記号を用い、位は右から何番目の数かという位置によって表すという数の表現法である。上の例で言えば

2637 = 2×1000 + 6×100 + 3×10 + 7

と書かれている。

この記数法の利点はローマ数字などの問題点と比べて明らかである:(1)桁の数だけの長さで数が表される;(2)10種類の数字だけでよい;(3)計算がきわめて容易になる。すなわちこれによって四則計算のアルゴリズムを確立することができる。これに加えて、(4)理論的にはいくらでも大きな数を表すことが可能である;(5)2つの数の大小がすぐ分かる。特にその桁数を見る(記された数の長さを知る)ことで、その数のおよその大きさが視覚的に分かる、などの利点がある。数の最も大切な性質は、四則演算ができることと大小関係があることの2つであったから、十進記数法がこれらとの整合性を持つこと(上記(3)(5))はこの記数法の最も大きな利点であると言える。

四則演算のアルゴリズムは、筆算という計算方法を生み、確立した。この十進法による筆算の方法には、(1)任意の数の計算が望むだけの精度で確実に行える;(2)方法が分かりやすく、誰でも実行することができる;(3)計算の手間が飛躍的に減少した;(4)誤りのあることが分かったとき、容易に検証できる、などの優れた点がある。先に挙げたローマ数字の例を十進記数法を用いた筆算で行ってみれば、その差が実感されるであろう:

日本で十進記数法と筆算が導入されて広まったのは明治時代のことであるが、それ以前には算盤が広く普及して用いられ、そこでは実質的に上に述べた十進記数法と筆算の利点がすでに実現されていた。これは江戸時代の高い識字率と併せて(読み書き算盤)、日本の教育水準、ひいては国力を高めており、明治以降の日本の「近代化」がきわめて速やかに進行した要因の1つとなっている。算盤とその利用は日本が世界に誇るべき文化の1つであると言えよう。

 

4.2.3 n進法と計算アルゴリズム

コンピュータは大きな数と多量の計算を行うが、ここでもこの位取り記数法の考え方と筆算の計算アルゴリズムとが使われている。ただしコンピュータでは数を数えるのに十進法でなく、2(またはそのベキ)進法が用いられる。

2進記数法では、掛け算が「1つ桁を左にずらす」(2を掛ける)ことと足し算のみで実行できる。掛け算では足し算に比べ数が大きくなるとその手間(計算量)が飛躍的に増大するが、コンピュータ計算では、この事実などを用いて、掛け算をより簡単に(短時間で)行う様々の工夫が行われている。

コンピュータや電卓の普及により、学校で筆算の練習をする必要はもうないのではないかという意見がある。確かに実際的な筆算の必要は減じているが、一方で定まった手続きによって知的な作業を省力化する「アルゴリズム」の大切さは増大こそすれいささかも減じていない。そのアルゴリズムの最も典型的な例である十進記数法の四則計算アルゴリズムをその仕組みの良さの理解と共に身に付けることは大切な数学リテラシーであると言えよう。

 

[1] 日本語には「ひいーふう」「みいーむう」「よーや」という独特の数の対応関係が残っている。

[2] 漢字「一、二、三、十」などにはその名残がある。日本の「正」の字を用いて数を数える仕方は今も有効である