4.4 円周率πと自然対数の底e

4.4.1 円と円周率

平面上の1点Oと正の数rを取るとき、Oからの距離がrとなる平面上の点全体が作る集合を、Oを中心とする半径rの「円」と呼ぶ。同様にして、平面ではなく、空間の中で定点Oからの距離が一定の値rである点の集まりを考えると、Oを中心とする半径rの「球」ができる。円や球は直線と共に幾何学的に重要な対象であり、数学の世界の基礎的な構成要素である。

平面上の図形で、面積がある与えられた値となる図形はたくさんあるが、円はその中でも周の長さが最も短いという特徴を持っている。平らな板に水を落とすと水は丸くなるが、それはこの理由による。同様にして、空間図形で体積が一定で表面積が一番小さいのは球であり、風船が丸くなるのも地球や星が球形なのも、この事実に基づく。

円の直径は半径の2倍であり、円の直径と周の長さの比は、円の中心の位置や半径の長さによらず一定であり、この比を「円周率」と呼び、円周を意味するギリシャ語περιφερειαの頭文字記号πを使って表す。したがって、半径rの円周の長さは2πrとなる。円周率が3に近いことは、メソポタミアやエジプトなど古代文明の頃から知られていた。円周率πは、数学で出てくる定数のうち最も基本的なものの1つであり、数学や科学・技術の様々な場面で現れる。

円の周をn等分し、正n角形を作る。

図7 円に正10角形が内接

この図形はn個の三角形に分けられるから、その面積は、三角形の面積の公式より、

(1/2)×(正n角形の周の長さ)×(円の中心から正n角形の1辺まで下した垂線の長さ)

に等しいことが分かる。そこでnをどんどん大きくすると、正n角形は円に近づき、正n角形の周の長さは円周の長さに近づき、中心から下した垂線の長さは半径の長さに近づく。したがって、

円の面積= (1/2)×(円周の長さ) ×(円の半径)

となることが分かる。よって、半径rの円の面積は(1/2)×2πr×r= πr2となる。同様にして、半径rの球の体積は(3/4)πr3 であり、表面積は4πr2となることが分かる。

 

4.4.2 円周率の値

円周率πの値は様々な方法で計算されるが、最もわかりやすい方法は、「円周の長さは、それに外接する正多角形の周の長さより小さく、円に内接する正多角形の周の長さより大きい」ことを使い、正n角形の周の長さで近似するものである。半径1の円に外接正n角形は、頂角が2π/nで頂点から底辺までの高さが1の二等辺三角形n個の和になるから、正n角形の周の長さは、正接関数を使うと2n tan(π/n)となる。同様にして内接する正n角形の周の長さは、2nsin(π/n)となる。アルキメデスはこの方法をn=96=253の場合に使って、3.142…… = 3 + (1/7)  > π> 3 + (10/71) = 3.140……であることを示し、現在日本では、円周率の近似値として3.14がよく使われている。なお、円周率πの近似値は、その後インド、ヨーロッパ、中国などで計算されたが、日本でも関孝和、建部賢弘、松永良弼などの和算家が江戸時代に50桁までを計算している。

πを表わす公式はたくさんあるが、次の公式が成り立つことがよく知られている:

π/4 = 1 – 1/3 + 1/5 – 1/7 + 1/9 – 1/11 + ……

この右辺の式はあまり計算には適さないが、これを改良した公式を使って、1873年W. シャンクスはπの値を527桁まで求めた。最近では、円周率の計算はスーパーコンピューターの能力テストに使われており、小数点以下1兆桁以上まで求まっている。

πを含む公式としては、L. オイラーにより発見された

1 + 1/22+ 1/32+ 1/42 + 1/52+ 1/62+ 1/72+ ….. =  π2/6

も有名である。オイラーは左辺で2乗の代わりに任意の偶数2n乗にした式が、πの2n乗の有理数倍になることを見つけ、ゼータ関数

ζ(s) = 1 + 1/2s + 1/3s+ 1/4s+ 1/5s+ 1/6s+ 1/7s+ ……

を発見した。

円周率を求めるには、これ以外にも色々な方法がある。例えば、乱数を使って- 1 ≦x, y≦1を満たす実数の組(x, y)をランダムにたくさん作り、そのうちどれだけが原点を中心とする半径1の円x2 + y2 ≦1 に入るかを求めると、その比率が

(半径1の円の面積)/(1辺2の正方形の面積) = π/4

に近くなる。このような方法で未知な値を求める方法を「モンテカルロ法」と呼び、値を計算する良い方法が見つからない場合には、非常に役立つ。

 

4.4.3 指数関数と自然対数の底

aを正の数、mnを整数とするとき、am乗をamで表し、そのn乗根をam/nで表す。そこで、xを実数とするとき、axaxを有理数m/nxに近づけたときam/nが近づく値と定め、aを底とし実数xを変数とする「指数関数」axを定める。

a> 1 のときは、指数関数axは、x が大きくなると値axも大きくなる。またこの関数axは、aが大きくなるほどxが大きくなったときの増加の仕方が大きくなる。そこで、x= 0 のとき、xを大きくすると同じ割合でaxが大きくなる数(つまりx= 0 での接線の傾きが1となる)aeで表し、「自然対数の底」と呼ぶ。

図8 指数関数 y= exy= 2xy= 3xy= (1/2)xのグラフ

定義より、指数関数y= exx= 0 での微分係数(接線の傾き)は1となる。また、指数関数y= 2xy= 3xのグラフを描くことにより、2 < e< 3 となることが容易に確かめられるが、eの値は2.718281828…. となることが知られている。さらに、eと円周率πは、i2 = – 1 となる虚数iを使うと、eiπ=-1 という関係を持つことがオイラーにより発見され、指数関数と三角関数がiを介してと結びつくことになった。

分数p/q  (pqは整数、q≠0) の形で表わされる数を「有理数」と呼び、それ以外の数を「無理数」と呼ぶ。2、3、5などの平方根が無理数であることはよく知られているが、eもπも無理数となることが知られている。

有理数p/qは1次方程式pxq= 0の解となり、平方根を使って作られる無理数は2乗すると整数となりx2– (整数) = 0の解となるが、これに対し、0 以外のどのような有理数係数の多項式に代入しても0とならない数を「超越数」と呼ぶ。このとき、eやπは超越数となることが知られている(エルミート1873年、リンデマン1882年)。ギリシャ時代には「与えられた円と同じ面積を持つ正方形を定規とコンパスで作図せよ」という問題(円積問題)が大問題となったが、リンデマンの結果から、約2000年後に円積問題は解けないことが分かった。なお、eやπを小数2.718281828……や3.1415926535……で表わすと、eやπは無理数だから、これらの数は、1/11=0.09090909……などのように同じ数の列が繰り返し現れることがないが、それ以上にこの展開の一部を「疑似乱数」として用いることが行われている。