4.5 対称性・不変性

4.5.1 対称な図形

図形にはその「種類」を決めたとしても、なお様々の「形」がありうる。その中で「特別な」図形、特に「美しい」図形と私たちが認識するのはどのようなものだろうか。

例えば三角形を考えてみよう。おそらく多くの人が「特別」とするのは、まず「正三角形」、ついで「二等辺三角形」「直角三角形」であろう。そして「美しい」とするのは正三角形ではないだろうか。少なくとも最も形の「整った」三角形であることは確かだろう。そして「二等辺三角形」は「少し整った」三角形と認識される。

こうした違いがなぜ生じるのだろうか。数学的に言えば、直角三角形は直角という「特別の」角度を持ち、二等辺三角形は(少なくとも)1組の、そして正三角形はすべての辺や角度が「同じ」である。しかしさらに考えるとこうした感覚は、二等辺三角形は「裏返して重な」り、正三角形はそれに加えてさらに「(60°)回転して重なる」という事実に結びついている。辺や角度が同じになるのはその結果である[1]

このように、ある図形を動かしても下の図形と重なる(不変である)とき、その図形は「対称性(symmetry)を持つ」という。そして多くの対称性を持つ図形を「対称性が高い」という。二等辺三角形は「裏返して重なる」[2]という対称性を持ち、正三角形は3種類の裏返しと2種類の回転によって不変な、三角形の中では最も対称性が高い図形である。

同じように考えると、「正多角形」が対称性の高い特別な図形であることが分かる。

では平面図形全体の中で、最も対称性が高い図形[3]は何だろうか。それは円と直線である。円はその中心を中心とするあらゆる回転によって不変であり、直線はその方向に沿ったあらゆる平行移動によって不変だからである[4]

そして自然の中に現れる図形の多くが対称性を持っている。例えば生物の多くの種の多くの部分は左右対称性を持っている。鉱物などの結晶も対称性の高いものが多い。人の生活の中に現れる紋章などの図形にも対称性が多く現れる。例えば「浮線蝶」は線対称性、「右二つ巴」は回転対称性を持つ。

図9 「浮線蝶」と「右二つ巴」[5]

 

4.5.2 対称式・不変式

「対称性」は数式にも現れる。例えば などはxyとを入れ替えても変わらない。このような式を対称式という。 と書けるように、実はすべての(2変数)対称式は によって表せるので、この二つを基本対称式と呼ぶ。同様に3変数の場合も対称式が定義され、  が基本対称式となる。それ以上の数の変数でも同様である。

2次方程式 の解を とすると、 から が分かる。これと (これは判別式であることに注意)とから2次方程式の解の公式が得られる。

また関数 で をみたすものを偶関数、 をみたすものを奇関数という。多項式で偶数次の項のみを持つものは偶関数で、奇数次の項のみを持つものが奇関数である。前者は という「対称性」を持っているわけであるが、後者についても定数倍だけの違いなので広い意味での「対称性」を持つとみなす。このようにより一般の対称性を考え、それに関する対称性を持つ式を一般に「不変式」と呼ぶ。

 

4.5.3 対称性・不変性

上で対称性を持つ数学的な対象を考えたが、そこで分かるようにどのような「対称性」を持っているかも重要である。そこで数学ではこの「対称性」を独自の対象として考える。実際正三角形の持つ対称性は、3つの頂点を自由に置き換えてよいことに他ならないので、3変数の対称式が持つ対称性と全く同じである。数学ではこれを群とよぶ。今の場合は3つの文字を自由に入れ替えることで得られる対称性なので、3次対称群と呼ばれる。そしてそれぞれの例はその対称性が実現されているものとみなす。ちょうど「数」が様々の「量」として現れるように、抽象的な「群」が様々の数学的な場に「対称性」として現れていると考えるのである。そしてその実現によって「不変な」数学的対象が「対象な」図形や式なのである。

歴史的には、方程式の解の持つ対称性の考察から群の概念が導かれた。その着想は若くして逝った天才数学者ガロアに負う。

 

4.5.4 理論の持つ対称性・不変概念

最初の幾何学の例で、図形の持っている対称性を考えたが、その場合一般の(いびつな)三角形の頂点を入れ替える変換は対称性と見なさなかった。すなわち平行移動、回転、鏡映(反転)およびその組み合わせのみを対称性の候補と見なしている。これらは平面幾何学で図形を重ね合わせるために「移動する」変換に他ならない。そしてこうした移動によって、図形の直線や円であるという性質、多角形の「形」、特に「長さ」「角度」などの量や互いに「平行である」という性質などは変わらない。

ところでこの移動は平面全体を平面全体に写すものであることに注意しよう。そこでこの「移動」の全体(2次元直交群)を平面そのものの対称性、より正確に言えば(平面)ユークリッド幾何学という「理論」が持つ対称性と考え、上記の性質や量をこの対称性によって不変な概念あるいは不変な量と考えることができる。「相似な図形」という概念はもちろんこの変換で不変であるが、さらに拡大縮小という変換によっても不変である。このように「対称性」として考える変換の範囲を変える(群の範囲を変える)ことで、それぞれの対称性の下での「不変性」が考えられる。対称性を大きくすれば、当然不変なものは減り、対称性を小さくすれば不変なものは増える。このようにして様々な幾何学をその対称性の種類や範囲を考えることで分類し系統付けようというのがクラインによって『エルランゲン目録』の中で提出され、以降の数学(および物理学)に大きな影響を持った考え方である。この考え方に拠れば、豊かな理論とは、大きな対称性を持ちながら、しかも大切な不変概念が沢山あるもののことである。

 

4.5.5 自然は対称性の高いものを選ぶ

このように対称性は数学という抽象世界の中で生まれたものであるが、最初に述べたように自然の中にも沢山の対称性が見られる。

これは「安定性」(stability)と呼ばれる考え方で説明できることが多い。例えば結晶では結合エネルギーが極小(その組み合わせの付近では最小)となっていることが対称性を生む理由となっている。あるいは無重力状態にある水滴は完全な球になるが、これも同じ理由である。数学的に簡単なモデルでいえば、周長が一定の三角形で面積が最大のものは正三角形である。

クラインの考え方を物理学にも応用すると、ニュートン力学、(特殊)相対性理論はそれぞれ大きな対称性と豊かな不変概念を持っていることが分かる。ワイルはさらに無限次元の対称性を考えることで量子力学を捉えることを提唱した。これは現在の場の量子論における基本的な考え方となっている。そしてさらに現代物理学はその対称性の「破れ」が現在の宇宙を創り出したのだという考えに至っている。すなわち安定状態からの「ずれ」「揺らぎ」がダイナミズムを産み出すのである。

 

[1] 四角形で考えると、対称性を持つ四角形として、馴染み深い「正方形」「長方形」「菱形」「平行四辺形」に加え、「凧形」(対角線に関して対称な四角形)が現れ、「台形」は等脚台形のみになる。

[2] 正確には、ある直線に関する線対称(鏡映)。

[3] ここで「図形」というときは、位相的に「連結」であることを前提にしている。

[4] 古代の様々な文化で、円は最も「完全な」図形とみなされた。

[5] 平凡社『大百科事典 14』1985、【紋章】図-日本の紋章。